【レビュー】NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」
観に行ってきました、「フェイクスピア」。
素晴らしかった。
この舞台を観れてよかった。
レビュー
私の当初の予想としては、野田秀樹と言えば「贋作 桜の森の満開の下」や「贋作 罪と罰」など、名作をモチーフにした作品がいくつかあるので(野田秀樹は剽窃と言ってました。)、「フェイクスピア」も同様にシェイクスピアの名作を下敷きにした作品だろうとタカをくくっていました。
が、違いました。
モチーフとしてのシェイクスピアは随所に出ていましたが、さまざまな言葉遊びが出てきましたが、それらのコトバはフェイクで、かつそれらのコトバは最後の一場面へと収斂されていきました。
引用します。
(出典:INTRODUCTION | フェイクスピア | NODA・MAP 第24回公演)
この「コトバの一群」が何なのかは、ネタバレになるので言いませんが、ここにも書かれているとおり、
この芝居『フェイクスピア』の最後は、そのコトバの一群の引用で終わる。
この芝居の最後の場面は引用なんです。
結局これが全てでした。
野田秀樹は、30年間やっていいかいけないか逡巡した末に、「コトバの一群」を舞台に載せました。
この「コトバの一群」の場面に至るまでに、多くのシェイクスピアの引用や言葉遊び、メタファーが散りばめられています。
それらは、この「コトバの一群」の場面に出会ったとき、私たちの頭の中で有機的に結びつけられます。
バラバラにほどけていた糸が最後に紡がれます。
この「コトバの一群」に出会うまで、物語の筋は全然見えてきません。
見えないが面白い。
一体何の物語かわからないまま、芝居は疾走していきます。
そこは役者の力、演出の力で芝居は運ばれます。
高橋一生の演技力と美しさ。
いやマジで美しいね。
顔もスタイルも声も美しいというのは、神様が与えすぎてますね。
舞台に立っているのが当然かのように、舞台上であんなに自然に呼吸ができるものですか?
村岡希美は、パンフレットに野田秀樹が「村岡希美はもっと評価されていい」と書いてあったが、そのとおり。
もっともっともっと評価されていいと思います。
野田秀樹は舞台でやりたい放題。
高橋一生が笑ってしまって芝居が止まってしまうくらいやりたい放題。
観客は、役者と演出の力で疾走する芝居に魅了されながら、暗い森の中に放り込まれて、物語がよく見えないまま、迷走します。
でも走っているのが楽しすぎて、「出口がなくったっていいか、野田秀樹だし」なんて呑気なことを思っていたら、一気に手繰り寄せられて絡め取られた、そんな気分になります。
『新潮 2021年7月号』に「フェイクスピア」の戯曲が掲載されているので買って読みましたよ。
舞台で聞いた台詞を聞いた端から忘れていく私のような忘却魔人には、戯曲のような目に見えるコトバはありがたい。
一番大切なものは目には見えないとしても。
この台詞!このモチーフ!!このメタファー!!!
発見しかないですよ。
発見のたびに心臓がキュッとつままれる思いです。
あらゆるフェイクが、あらゆるコトバが「コトバの一群」に関連していくのです。
戯曲読んだらもう一回舞台を観たくなりました。
そんなお芝居です。
映画でも小説でもマンガでもラジオでもこんな物語ありません。
芝居でしかできない物語です。
公演情報
NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』
■作・演出:野田秀樹
■出演:高橋一生 / 川平慈英 伊原剛志 前田敦子 村岡希美 / 白石加代子 野田秀樹 橋爪功
■STAFF:
美術:堀尾幸男 照明:服部基 衣裳:ひびのこづえ
音楽・効果:原摩利彦 音響:藤本純子 振付:井手茂太
ヘアメイク:赤松絵利 舞台監督:瀬﨑将孝 プロデューサー:鈴木弘之
■公演日程・会場:
<東京公演> 2021年5月24日(月)~7月11日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
<大阪公演> 2021年7月15日(木)~7月25日(日) 新歌舞伎座